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太平洋クロマグロの資源管理を話し合う国際会議が7月16日、大型魚の漁獲枠を1・5倍にし、小型魚は10%増やすことで合意した。「黒いダイヤ」と呼ばれ高級食材として知られるクロマグロ。漁獲量が増えれば値下がり傾向に向かい、庶民の手に届きやすい存在になる可能性もある。今後外食やスーパーなどでの販売価格にどう反映されるかに注目が集まっている。
「天然ものは品質もあるだろうが、量が増えることで価格も少しは抑えられるはず。提供しやすくなるのは事実だ」
「なにわの台所」として知られる黒門市場(大阪市中央区)などに店舗を構えるマグロ専門店の社長は漁獲枠の拡大についてこう期待する。
クロマグロはほかのマグロに比べて高額だ。東京都中央卸売市場の天然や養殖、輸入ものの冷凍クロマグロの今年5月の取引価格は3210円。これと比べ、キハダマグロは1133円、メバチマグロは1145円と、2千円以上安かった。
だが、クロマグロの取引価格はすでに下降傾向にある。
黒門市場のマグロ専門店はこの1年、東京電力福島第1原子力発電所の処理水をめぐる中国の禁輸措置やマルタ産などの輸入マグロの増加に伴い、比較的安くクロマグロを仕入れることができているという。社長は「輸入ものは約千円ほど安くなった」と明かす。
東京都中央卸売市場の冷凍クロマグロも、約1年半前の令和4年12月は1キロあたり4212円と今より千円程度高かった。漁獲枠の拡大は、価格の下落傾向に拍車をかける可能性がある。
もっとも、回転ずしチェーン大手などの中には、価格下落の恩恵にあずかっていないところもある。
くら寿司の場合、あらかじめ決めた価格で長期契約する形を取っているため、「仕入れ値がすぐに安くなるわけではない」(広報担当者)。
人件費やエネルギー価格も上がっており、今後クロマグロの仕入れ値が下がったとしても「商品の価格に反映できるかは分からない」という。
一方、近畿大世界経済研究所の有路(ありじ)昌彦教授(水産経済)は「取引価格の下げ傾向が予想されるが、人件費や餌代が高騰しているため、長期的な視点でみると漁業者や養殖者にとって厳しい状況になりかねない」と分析する。
今後、漁業者側などの供給体制が縮小することも考えられるといい、「長期で安定して、リーズナブルな価格で消費者のもとに届けられるわけではない」としている。
筆者:清水更沙、田村慶子(産経新聞)